本当は頭立ちやブリッジのような大技(?)とも言えるかっこいいヨガポーズに取り組みたいけれど、チャレンジする自信もないし、レギュラークラスではなかなか取り組むチャンスがない。
そもそもインストラクターから「上級ポーズにこだわらなくていい」なんて言われることも度々。
このモヤモヤ、いったいどう解消すれば良いのか、詳しく解説していきます。
上級ポーズの習得=ヨガのゴールではない
ヨガのゴールは「サマディ(悟り)」とか「モクシャ(解放)」とされます。
ここでは主題がずれるのでサマディやモクシャの詳しい解説はしませんが、ヨガのゴールが「健康になること」や「痩せること」ではないことに間違いありません。
ヨガをすることでもちろん健康になり、痩せることも可能ですが、それらはヨガの効果の一つにしかすぎません。
ヨガを実践し学べば学ぶほど、私たちは自分のエゴ(自分本意な考えや、自分勝手な欲望など)を手放すことで心も体も楽に、自由に、生きやすく、幸せになることに気がついていきます。
そのこととポーズは必ずしも結びついていないのです。
エゴを手放すためにもっとも必要なことは、日々の呼吸法と瞑想の実践にあります。
でも、この呼吸法と瞑想の実践にはヨガのポーズが欠かせません。
ヨガのポーズを練習することで、座るための筋力や集中力が増し、その結果呼吸や瞑想がしやすくなるのです。
上級ポーズでは健康にも幸せにもなれない?
また実際、ヨガのポーズの中でも上級ポーズは特に体にとってものすごく必要なものではないですし、またそれによって健康効果が高まるとは言い切れません。
人間の骨格は誰もが180度開脚ができるように作られているわけではないですし、誰もが足が頭の後ろに引っかかるようにも作られていません。
むしろ、そのような負荷のかかる動きを無理にすることで怪我のリスクを高めるケースもあります。
上級ポーズは健康になるため、幸せになるために存在しているわけではないことがこの説明でもご理解いただけたのではないでしょうか。
なんのために上級ポーズがあるの?
それでは、一体なんのためにヨガの上級ポーズがあるのか。
それには大きく3つの理由があります。
1.脳神経を活性させる
上級ポーズは、体にそれなりの負荷がかかりますが、体にとって自然な状態ではないのです。
そのため脳にも負荷をかけることになります。
例えば片足で立つ木のポーズでも、日常生活で片足になることはほとんどないので、脳にとっては負荷がかかっています。
この「脳にとっての負荷」は語学を習得しているときと似ていて、脳に新しい神経系を活性させるのに役立ちます。
つまり、軽い脳トレ状態です。
上級ポーズになればなるほど体以上に脳に負荷がかかることで、脳機能が活性していくのです。
2.恐怖心や苦手の克服
上級ポーズとされるものには、逆立ちや頭立ちなど転倒などの恐怖が起こるためにどうしてもチャレンジできない人もいます。
倒れてしまったら?怪我をしてしまったら?痛かったら?
そのような恐怖心からチャレンジできないのであれば、ぜひその恐怖心を乗り越えるために上級ポーズにあえてチャレンジするのは楽しいのではないでしょうか。
また、後ろに反るのが苦手、捻るのが苦手、などさまざまな苦手があると思いますが、そういった苦手を克服するのにも上級ポーズは役立ちます。
ポーズに対して苦手や恐怖を感じる時、まず自分が何に対して苦手や恐怖を感じているのかを客観的に知ることができます。
その上でチャレンジする・しないは自分で決めることができます。
チャレンジしない場合、それはもしかすると人生の他の場面でもチャレンジしないことを選びがちだという自分の傾向に気がつくかもしれません。
あるいはチャレンジすることはできても、準備や小さいステップを踏むことなく無謀なチャレンジをしてしまうことで、しなくても良い怪我をしてしまうかもしれません。
それはヨガ以外の場面でも自分の生き様においてそういう傾向があるサインかもしれません。
いずれにせよ、恐怖や苦手を知ることは自分の人生に対する姿勢を知ることができます。
上手に克服できたのなら、諦めずにチャレンジすることは人生の他の場面でも活かせるのではないでしょうか。
3.チャレンジと成長の実感
一つ前の話と似ていますが、年齢を重ねるほど私たちはチャレンジする場面が少なくなります。
しかし、最新の脳科学では記憶力と認知スピードは加齢とともに低下する傾向にある一方で、言語能力・空間推論力・単純計算力・抽象的推論力などは向上することが確認されています。
また、ストレスに対する強さも加齢とともに増す傾向にあるとされます。
肉体的には筋力や関節の能力は低下しますが、柔軟性はストレッチなどを続けることで維持・向上することは可能だとも報告されています。
私たちは「加齢とともにチャレンジしない、成長しない、それは歳だからしょうがない」と考えがちですが、ヨガをしている人はいくつになってもチャレンジすることや成長することを、少しずつ上級ポーズを習得していく過程で体感することができるのです。
上級ポーズが必要な人は?
つまり、上級ポーズはある程度年齢を重ねた人にこそ有効だと言えるでしょう。
上級ポーズをできるようにすることが目的なのではなく、自分が今できる範囲で「無理なく挑戦」することを助けるための上級ポーズです。
壁を使った逆立ち、途中までのブリッジ、1日1mm柔らかくするつもりで行う開脚など、少しずつチャレンジしたり、改善したり、成長を実感するための上級ポーズです。
ヨガの上級ポーズに取り組む姿勢を人生の全ての場面で生かしたいと人にも有効です。
上級ポーズが不要な人は?
一方、上級ポーズが必要でない人もいます。
それはヨガのポーズをしなくても、呼吸法や瞑想が日々実践できる人や、すでに悟りや解脱(解放)の道を歩まれている人です。
呼吸法や瞑想法を行うのに一番難しいことは「長く座る」こと。
短い時間であっても静かに座って目を閉じるのは簡単なことではありません。
多くの方が呼吸法や瞑想が苦手とするのは静かに目を閉じて座っていられないからです。
ヨガのポーズを練習することで、静かに目を閉じて座ることが少しずつ簡単になっていきますが、ヨガのポーズをしなくても呼吸法や瞑想法ができる人は、ヨガのポーズの練習はそこまで重要ではないのです。
まとめ
実際、お寺で修行されているお坊さんなどは朝のお勤め(庭の掃除、境内の掃除、読経など)をすることから、ポーズの練習と同じ効果を得ています。
朝のお勤めを経れば、ポーズの練習などしなくても、すっと座って心をしずめ、目を閉じて黙想(瞑想)することができています。
ヨガの八支則では「アサナ」の後に「プラーナヤーマ(呼吸法)」「ディヤーナ(瞑想)」「サマディ(三昧)」と順序が決められていますが、これは理にかなっています。
自分に必要なポーズをして呼吸法と瞑想のつなげていくことが、上級ポーズをする意味なのです。