今回ご紹介するラージャヨガは、ハタヨガよりも歴史が深く、ハタヨガの元となったもの。
ヨガのポーズをとらずに瞑想のみを行い、精神面にアプローチするという奥の深いヨガのスタイルです。
瞑想の前段階として、ヨガ哲学を十分に学び、日常生活に反映することが大切となってきます。
ヨガ初心者の方にとっては、謎の多いラージャヨガ。
一体どんなものなのか、詳しい効果とやり方をご紹介していきます。
ラージャヨガとは?
ラージャヨガは、精神面に深くアプローチするヨガのスタイルです。
インドの哲学者であるパタンジャリによって編纂されたと言われている、ヨガの経典『ヨガ・スートラ』に示されている「八支則」の教えに沿って行われます。
瞑想を深めることで、三位一体や悟りといったヨガの境地を目指すものです。
伝統的なラージャヨガは、ヨガポーズは行わず、坐法をとり瞑想だけを行います。
ただ座って目を閉じているだけなので、多くの方が想像するヨガとは大きく異なりますね。
もともとインドの修行僧などは、この方法でヨガを極めていたと考えられます。
しかし、瞑想だけでは高みを目指せないこともあったため、呼吸と共に身体を動かすことで心と身体を統制し、瞑想状態を目指す方法が生まれました。
それが、私たちにとって身近な存在であるハタヨガです。
現代では、坐法や瞑想よりもヨガポーズの方がずっと有名で、ヨガそのもののイメージとなっていますよね。
しかし実際には、ヨガの経典『ヨガ・スートラ』に示された「八支則」の3番目に、アーサナ=坐法として説明があるだけです。
もともとアーサナとはポーズのことではなく、瞑想を深めるための、安定していて快適である坐法のことを指していました。
ラージャヨガとハタヨガの違いは?
ラージャヨガはハタヨガの前身です。
ラージャヨガとハタヨガとは、全く違うものというわけではありません。
ただ、歴史の長さ、自分自身と向き合う方法、得られる効果が異なります。
400年頃にヨガの経典『ヨガ・スートラ』と共に広まったラージャヨガの方が歴史は長く、1300~1600年頃に大成したとされるハタヨガは比較的新しいヨガのスタイルです。
ラージャヨガは瞑想を中心とした静的なアプローチで、ハタヨガは呼吸とアーサナ(ポーズ)を組み合わせた動的なアプローチで、共に心と身体を統制することで、三位一体への高みを目指していきます。
身体を積極的に動かすハタヨガでは、生理的な変化が起こります。
身体のコリがほぐれる、筋肉がゆるむ、消化器系が働きやすくなるなどです。
ラージャヨガには、そのような生理的な変化へのアプローチはほとんどありません。
ただし、どちらも呼吸法を大事にしているので、自立神経の乱れを整える、血液循環を改善するといった効果は、ラージャヨガ、ハタヨガ共に期待できるでしょう。
ラージャヨガの目的
ラージャヨガの元となるヨガの経典『ヨガ・スートラ』は、こんな一節で始まります。
YOGAS CHITTA VRITTI NIRODHAH(ヨガとは心の作用を止滅することである)
この一節がこの経典で最も大事なことだと言われています。
これこそが、私たちがヨガで目指すべきゴールなのです。
心の作用を止めることが、なぜ大切なのでしょう。
それは、負の感情(不安、不満、嫉妬など)を作り出すものは自分自身の心であり、正の感情(安心、満足、喜びなど)を作り出すものもまた自分自身の心に違いないからです。
不安も安心も、どこにも存在しません。
私たちの心が勝手に作りだしているものです。
心の無駄な動き止めることこそが、自分らしく幸せに生きるメソッドだとパタンジャリは説いているのです。
しかし、心は常に動いているもの。
特に私たち現代人は、多すぎる情報の中で生き、忙しく頭の中で考え、相手の顔色を読み、未来を不安に思っています。
先入観を捨てて、“ありのまま”物事や人物を見ることさえできません。
心が動きすぎています。
その心の作用をコントロールする術が、ヨガなのです。
ラージャは、サンスクリット語で「王」という意味です。
ヨガには、「結ぶ、繋がる」という意味があります。
ラージャヨガは、自分の中に宿る「王」、つまり「心」や「自分自身」と繋がることを表しているのです。
ラージャヨガの効果
ヨガでは、生理的な変化はほとんど得られません。
ダイエットや美容といった目的でヨガを取り入れている方にとっては、あまり意味がないものになるでしょう。
短期的なゴールを目指している方にとっても、魅力的ではないかもしれません。
しかし、ラージャヨガはより良い人生を歩むための「心の健康」を手に入れることができます。
ラージャヨガの効果を一つ一つ解説します。
感情に振り回されなくなる
ラージャヨガにより、心の作用をコントロールできるようになります。
ラージャヨガの効果で、感情がなくなってしまうということはありません。
あくまでも、心の過剰な作用を止めて、適切にコントロールすることが目的です。
過度に怒ったり、不安に思ったり、想像によって苦しんだりすることがなくなります。
自分を好きになれる
自分の中の「王」、すなわち何の肩書も情報もない自分そのものを見つめるラージャヨガ。
収入や学歴、運動能力、容姿といった、私たちが自分の価値だと思い込んでしまっているものから解放されます。
唯一無二の存在である、ありのままの自分を好きになることができます。
大切なものが分かる
ラージャヨガを通して、フラットな心で自分や他者を見つけることができれば、本当に大切なものだけが見えてきます。
欲深い人生から、ワンランク上の人生へとステップアップすることができます。
幸せになれる
幸せな人生は、「心の健康」なくしては、得られません。
心にアプローチするラージャヨガは、人間が幸せになるための芯を作り出してくれます。
ラージャヨガのやり方・基本について
ラージャヨガは、瞑想を行うヨガなのですが、いきなり座って瞑想を始めるのではなく、ヨガの経典『ヨガ・スートラ』の「八支則」に沿って行っていきます。
「八支則」の最初に記されているのが、「①ヤマ(禁戒)」「②ニヤマ(歓戒)」です。
日常生活の中で行ってはいけないこと、行うべきことが説かれています。
その指針を守り生活をしていくことが前提となり、その後、瞑想を深めるための「③アーサナ/坐法」「④プラーナヤーマ/呼吸法・調気法」「⑤プラティヤハーラ/感覚の制御」「⑥ダーラナ/集中・精神統一」「⑦ディアナ/瞑想」と続き、最後にヨガの最終目的である「⑧サマーディ/三昧、超意識、悟り」に辿り着きます。
つまり、ラージャヨガはヨガをしている瞬間だけがヨガなのではなく、生活そのものがヨガでなくてはならないのです。
ここでは、ラージャヨガを行うためにまず学ぶべき、「①ヤマ(禁戒)」「②ニヤマ(歓戒)」について詳しくご紹介していきます。
ヤマ(禁戒):行ってはいけない5つのこと)
- アヒムサ/非暴力、不殺生:他者、自身への暴力の禁止。行動だけではなく、言動や思考も非暴力でいるように。いかなる生き物も殺生してはいけない。(伝統的なインドのヨガ愛好家にはベジタリアンが多い。現代では、感謝を持っていただこうという解釈も広がっている。)
- サティヤ/嘘をつかないこと:自分の利益のために他者に嘘をつかないこと。自分にも常に正直でいること。
- アスティヤ/不盗:他人のものを盗んではいけない。有形なものだけでなく、時間、権利、気持ちなども盗んではいけない。
- ブラフマチャリヤ/禁欲:利己的な欲を満たすことに執着しない。もともとインドの修行僧は、エネルギーの無駄使いとなる性欲についても禁欲をしていたとされる。現代においても、むやみな性欲に支配されないことが大事である。
- アパリグラハ/不貪:必要以上に欲しがらない、所有しない。所有物が増えると執着が生まれ、失うことへの恐れ、不安、怒りなども生まれてしまう。
ニヤマ(歓戒):行った方がよい5つのこと)
- シャウチャ/清浄:自分の身体、身の回りを常にきれいな状態に保つこと。心も清潔に保ち、嫉妬や嫌悪、ネガティブな思考に捕らわれないようにする。
- サントーシャ/満足、知足:今あるものに気づき満足すること。あるがままを受け入れること。
- タパス/苦行、自制:困難を受け入れること。自ら苦行を実行すること。どんな辛いことも、自身のための鍛錬となる。タパスはサンスクリット語で「熱」。自分の中の不純物を熱で燃やすことで、純度を上げていく。
- スヴァディアーヤ/読誦、学習、向上心:聖典などの書物を読むこと。(現代では、自身のためとなる正しい情報の本を読むことと広く解釈されることもある。)
- イーシュワラ・プラニダーナ/信仰:神に信仰心を持ち、祈りを捧げること。自然の力など、自分ではどうすることもできないことを受け入れ、運命に身を委ねること。(現代では、それぞれが信仰するものを大切にすることや、すべてのものに感謝の気持ちを持つことと広く解釈されることもある。)
ラージャヨガのクラスで行われること
ラージャヨガにチャレンジしてみたい!と思っても、日本ではまだあまり一般的ではありません。
「瞑想クラス」というのが、ラージャヨガに近いでしょうか。
私が住む南アフリカ・ヨハネスブルグには不定期開催でラージャヨガのクラスがあるので、その内容を簡単にご紹介します。
ラージャヨガのクラスでは、ヨガの経典『ヨガ・スートラ』の「八支則」についてのお話があります。
ヨガ哲学を理解し、「①ヤマ(禁戒)」「②ニヤマ(歓戒)」を生活に反映することからラージャヨガが始まるからです。
その後、心地よい姿勢をとるためにいくつかヨガのアーサナ(ポーズ)を行い、座位に落ち着いたあとに、瞑想を行います。
アーサナ→瞑想という流れなので、一般的なヨガクラスと似ていますが、瞑想の時間が非常に長いのが特徴です。
そのため、安定して座れない方、瞑想に慣れていない方にとってはハードルが高いヨガクラスです。
ラージャヨガを行うなら、まずは安定した坐法を身に着ける必要があります。
そのためにはやはり、アーサナを十分に続けていく必要があるのだと感じました。
ラージャヨガは、ヨガを長く続けた先で出会う高度なヨガだとも言えます。
ラージャヨガで心を豊かに
ラージャヨガは、瞑想を極めることで、自分の中の「王=心」を統制していく伝統的なヨガのスタイルです。
なかなか挑戦する機会がないかもしれませんが、ヨガ哲学やヨガのアーサナを学んでいく先には、このようなヨガのゴールがあると知っておくと良いのではないでしょうか。