確かにヨガは老若男女問わずできるスポーツの側面があり、その心地良さや体に起こるポジティブな変化を一人でも多くの方に体感いただきたいと思います。
その一方で、シニアにヨガを教える場合にはいくつかの注意も必要です。
ここではシニアヨガの集客のコツ、注意すべきことや指導のコツについてご紹介しましょう。
シニアといっても一人一人の背景はまったく違う!
シニア世代にヨガを教えるにあたり、最も大切な知識は「シニア」といってもひとくくりにできない、ということです。
年齢が高くなるほど、体力や運動神経には大きな個人差が生じます。
基本的にクラスの名前を「シニアヨガ」としていれば、それを見ただけで「ゆったりした、誰にでもできるヨガなのかしら」と思われる方が多く、またインストラクターもゆったりしたクラスを考案すると思いますが、それでも参加されるシニアの方々の個体差は非常に大きいです。
例えば、65歳と75歳そして80歳ではまったく動きの速度や聴力が違います。
印象としては75歳を超えてくると、それまでどんなにスポーツ経験があったり、運動神経に自信を持っているシニアでもガクッと体力が低下したり、あるいは手術や入院がきっかけで全体的に老化が加速する人が増えてきます。
とはいえこれもどの人にも当てはまるわけではなく、80歳でもアクティブで60代と変わらない敏捷性をキープしている人もいれば、まだ60代前半でシニアとはいえないのに体のあちこちの痛みを訴えている人もいるのです。
また、健康問題がないのに、ヨガの慣れない動きで貧血のような症状が出る方や、ゆるめのストレッチでも筋肉痛を起こし整骨院にいくべきかと心配される方もいます。
60代以降の体力・気力の個人差はあまりに大きく、そのためシニアにヨガを教えるのは非常に難しいと感じます。
シニアヨガで求められること
しかも60代以降の方がヨガで求めていることは、柔軟性の向上やアクロバティックなポーズの習得ではないことがほとんど。
「とにかくなんでもいいから運動がしたい」「筋肉や関節の柔軟性の維持」「リラックス」「他者とのコミュニケーション」が主な目的です。
なんでもいいから運動をしないとまずいと思っている
それまでに運動習慣がある人もない人も、ある程度の年齢になると運動習慣を持たないとまずいな、と意識するようになります。
ウォーキングなどをスタートさせる人も多くいますが「天候に左右される」「一緒に歩いてくれる人がいない」「膝が痛くなってきた」など挫折する人も多いのです。
しかし、何らかの運動習慣を求めていることに間違いはありません。
ヨガならなんとなく続きそう、そう思って参加する人は多いのです。
筋肉や関節の柔軟性の維持(フレイルの予防)
そもそもなぜなんでもいいから運動しなければ!と思い立つのかと考えると、60代以降は何もしなければ筋肉や関節が急速に弱くなることがよく知られているからです。
最近は「フレイル」という言葉が使われます。
フレイルとは「虚弱」と訳され、フレイルが進むと介護が必要になりますが、初期段階で予防すれば「健康」に戻れます。
しかもフレイルは生活習慣病(肥満や糖尿病)よりも、死亡リスクが高くなることも知られるようになってきました。
フレイルの中にはサルコペニア(筋量低下)やロコモティブシンドローム(運動器障害)も含まれますし、「身体的」なものだけでなく「社会的な」ものもあります。
コミュニケーション
フレイルには社会的フレイルがあると紹介しましたが、特に定年前後に私たちは人との繋がりに大きな変化が起こりやすく、基本的には繋がりは減りがちです。
定年だけでなく、他にも子どもの独立、自分の両親や友人の旅立ちなど、さまざまなライフイベントがある時期です。
この時期に支えてくれるのは、家族はもちろんですが、利害関係のないところで繋がった知人や友人になります。
ヨガクラスで出会う人とも利害関係がなく、またそれまでの背景もさまざま。
うまくいけばかけがえのない繋がりを構築することができます。
そういった繋がりや他者とのコミュニケーションを求めて、クラスに参加する人も多いのです。
シニアヨガですべきこと
ここまで説明してきた通り、シニアヨガには「個人差」を考慮したクラスを構成することが何よりも重要です。
そして、シニアがヨガに求めていることがわりと明確ではあるけれど、必ずしもそれはヨガではなくてもいい、ということを頭に入れておくと、ニーズに応じたクララス展開ができるはずです。
例えば、ヨガの難しいポーズや哲学、うんちくを長々とインストラクターが語ることは求められていません。
ただし、多くはありませんが呼吸法や瞑想を習得したくて参加される方もいるので、そのあたりはやはりコミュニケーションを取る必要があります。
基本的には運動量が少なくても適度な運動による爽快感、体が伸びたり温まったりする感じが得られれば満足です。
また、続けて通ってもらう(練習を続ける)ことで本人が体力に自信がついてきた、とか、体が柔らかくなった気がする、と効果を体感させることも継続の秘訣です。
さらに、一つのポーズに対しマットで行うバージョン、椅子で行うバージョン、道具を使うバージョン、軽減方法や別のポーズによる代用などあらかじめバリエーションを心に用意しておく必要があります。
シニアの生徒さんの場合、こちらが指導するポーズができないこともありますが、それは双方になんの責任もありません。
そのポーズをなぜして欲しいのか、インストラクターには狙っている効果や意図があると思いますので、その意図や効果を別の方法でできるように提案すれば良いのです。
そして、レッスン中の会話は何よりも大切です。
一人一人と積極的にコミュニケーションをとり、ニーズを明確にし、さらに生徒さん同時の横の関係も繋げていけるように目指しましょう。
社会的フレイルの予防になります。
シニアヨガですべきではないこと、参考にすべきこと
例えばまったく運動経験がない人は深い前屈から起き上がるだけでクラクラする人もいます。
太陽礼拝などのベーシックも相当ハードルが高いです。想像してみてください。
70歳で機敏な太陽礼拝をしていたら、すごいと思いませんか?
私たちインストラクターにとって簡単なことは、必ずしもシニアの方にとって簡単なことではなかったりします。
足首を回す、前屈をする、といったインストラクター的にはそれほど教えがい(?)のない基本的なポーズや動きこそシニアが求めているものだったりもします。
参考にすべきはラジオ体操です。
公園などでラジオ体操に参加しているシニア層が多くいますが、一度参加してみると良いと思います。
ラジオ体操の動きはヨガのクラスでも流用できるものが多いので、シークエンス構築や指導の参考になります。
また、参加者の動きを見るのも大変勉強になります。
ラジオ体操でもできる人できない人の個人差が大きく、それでも誰一人傷つくことなく、気持ちよく笑顔で体を動かし、適度なコミュニケーションも取れているのです。
ヨガはシニアの役に立つ
シニアヨガのニーズは高まっていますが、シニアヨガのプロフェッショナルへの道のりは長いと私自身感じます。
むしろ、私のクラスに参加されているシニアの生徒さんたちから学ばせていただくことばかりです。
ただ、ヨガの知識がシニアの方のお役にたてることは間違いありません。
私も努力してシニアの方々にも楽しんでいけるクラス展開をより深く考察・提案していきたいと思います。