インストラクター養成コースでもムドラについては、それほど多くの時間を当てていないのではないでしょうか。
それでもヨガにおいてムドラは非常に重要です。
ここではムドラの概要や、すぐに効果を体感できる3つのムドラについてご紹介しましょう。
ムドラとは何なのか?その起源は?その意味は?
ヨガを練習しているならば「ムドラ」についてなんとなく、「手や指でさまざまな形を作るもの」と理解している人が多いと思います。
しかし、ムドラとはサンスクリット語で「mudra(aの上に点がつく)」で、「身振り、印、態度、特性」と意味は多岐に渡り、手だけでなく顔や体を使い感情や態度を引き出すジェスチャーという説明もあります。
つまりムドラを定義することは容易ではないのです。
実際、顔のムドラには「シャンバヴィ・ムドラ」手のムドラには「ハスタムドラ」と名前もついています。
ムドラの歴史は長く2000年以上前からあるとか、初期のヨガは座法とムドラが主役でポーズよりも重視されていた、など諸説あります。
あるいはインドに限らず、イエス・キリストの手の仕草もムドラで、例えば「合掌」は世界共通のムドラの代表と考えられています。
しかし「ムドラの使用は秘伝でグル(師)から個人的に口頭で学ぶもので、そのためヨーガ・スートラでは多く語られていない」ともされています(「現代人のヨーガ・スートラ」)。
このように、ムドラについても知識や情報はアサナ(ポーズ)と同様に膨大であるだけでなく秘められた部分が多くあり、そこに情熱を注ぐとなると時間がどれだけあっても足りないほどなのです。
ヨガを学ぶなら、ムドラについても学ぶべき理由
私自身ムドラについてほとんど何も知りませんが、ヨガインストラクターとしてもいちヨガ愛好者としても、もっとムドラを知りたいと思う気持ちは日増しに強くなるばかりです。
なぜなら、自分はさておき、生徒さんをみていると、その方の心身の状態が「手」に現れることが非常に多いと感じるからです。
例えば、シャバアーサナの時に基本的には手のひらを上向きにしてリラックスするように誘導しますが、どうしても手のひらを下向きにしたり、胸に当てないと落ち着かないという方は案外多くいます。
これらを見るたびに、その方の心がそこまでリラックスしていないということや、何か胸に不安が残っているというようなサインが本人は無自覚であっても、手に現れているように感じます。
ウルドゥバハスタアーサナ(手を上に上がるポーズ)でも、手のひらを向かい合わせにする人、手のひらを正面に向ける人、と実はさまざまです。
あるいはクラスの前後に手を胸の前で合掌するのが嫌なのか、それを誘導してもしない人、瞑想の時間に親指と人差し指を合わせるチンムードラを誘導してもしない人もいます。
合掌やチンムードラは宗教っぽいイメージと結びつくムドラであるからかもしれません。
インドにはムドラだけで病気を治せると断言するムドラマスターもいるようですが、まずは自分の練習やクラスでムドラをしっかり実践し、その効果を体感することでムドラについての理解を深めたいと私は考えています。
ではさっそく、誰にでも簡単に取り入れやすいムドラ3つをご紹介しましょう。
おすすめのムドラ3選
おすすめムドラその1、アンジャリムドラ
先の例で紹介した「胸の前での合掌」がアンジャリムドラです。
「Anjali」には「捧げる」という意味があるそうです。
ヨガでは体の右側が太陽のエネルギー、左側に月のエネルギーが流れていると考えますが、それは男性性と女性性の象徴でもあり、右手と左手を合わせることでそれらの相反するエネルギーを一体化させるという意味があるとされます。
つまり、自分の中にある男らしい部分と女性らしい部分、あるいはポジティブな部分とネガティブな部分、善と悪、自分の中にもさまざまな「顔」があると思いますが、それら全てを統一して受け入れる、という意味があるのではないかと私は解釈しています。
そのため、私の場合ですが、クラスや練習のはじめに行なうアンジャリムードラには「あらゆる自分を受け入れます」という意味を込めています。
一方、これは私がインドの先生から聞いた話なので、ネットや文献には出てこないのですが、「右手が父親」「左手が母親」という話を聞いたことがあります。
この二人のおかげで自分が存在しているということを合掌によって今一度確認し、感謝を捧げるのです。
この話は今でも私の心に深く刺さっていて、練習やクラスのおわりに行なうアンジャリムドラには私はこの意味を込めています。
おすすめムドラその2、チンムドラ(ジュナナムドラ)
チンムドラもヨガのクラスで多く取り入れられるものの一つです。
スッカーサナ(安楽座)や正座で座り、呼吸法や瞑想を行なうときに行なうムドラです。
親指と人差し指の先をそっとくっつけて、小さな輪を作り、残りの指は柔らかく伸ばし、手のひらは上に向けます。
私が学んだ時には「親指が真我(宇宙)」「人差し指が自我(小宇宙)」で、ふたつを合わせることで大きな宇宙と小さな自分を繋げることができる、と教えられました。
また、正確には親指の腹を上にし、人差し指の腹を覆うようにすると良いと聞いています。
大脳の血流を促進させる、心を穏やかにする、アイディアが浮かぶ、マインドがクリアになる、などさまざまな効果があるとされます。
私自身はこれらの説明に抵抗感を持つことはありませんが、やはりその形から何か「宗教っぽさ」や「胡散臭さ」を感じる人もいるようです。
これは禅の先生から教えていただいたのですが「座禅中に眠くならないよう、意識を親指と人差し指の輪に集中しておく。眠気が訪れると指が離れるので、軽く触れた状態を意識しておく」とおっしゃっていました。
チンムドラに形に違和感がある方は、このように「眠気予防」と捉えておくのも良いかもしれません。
おすすめムドラその3、シャンムキムドラ/h3>
私自身さまざまなムドラを調べ、試してみていますが、中でも即効性を感じたのが「シャンムキムドラ」です。
スッカアーサナやパドマアーサナ、できなければ正座などで座ったら、人差し指は眉骨の下あたり、閉じた瞼(目の上)に中指、鼻腔の外側(小鼻のあたり)は薬指、小指は唇の上を軽く当てるようにして、両手で顔を覆うようにするのがシャンキムドラです。
教えによっては、親指で耳の穴を塞ぐという人もいます。
このムドラをしながらゆったりとウージャイ呼吸や完全呼吸、できれば蜂の呼吸(ブラマリー)を行なうと、非常に深いリラックスや癒し、静けさを感じることができます。
たった1分程度でも不安、ストレス、不眠、高血圧、耳鳴り、眼精疲労に効果があるともされるので、仕事中などにも適宜取り入れると良いでしょう。
実際私もこのムドラはヨガの練習ではなく、仕事中や入浴中などに行なうことが多いです。
ムドラはどんどん実践しよう
いかがでしたか?
謎に包まれた部分が多いムドラですが、効果が感じられるものからどんどん実践し、色々なムドラに挑戦してみると、ポーズを練習するだけよりも体と人生がよりよく変わっていくと思いますよ。