「シニアでもはじめられるヨガ」という趣旨のSNSやメディア情報も増えています。
アシュタンガヨガなどのハードなヨガでも50代から、60代からはじめてみようという講座まで登場しています。
とはいえ、一昔前のシニアヨガといえば「椅子」を使って行うストレッチの延長のようなものでした。
シニア世代でも本当にハードに動くヨガができるのか?指導において注意すべきことは?怪我を起こしやすいアーサナは?
事前に知っておくことで、シニアヨガを安全に行えるようにしましょう。
「シニア」の定義が難しい!健康状態の個人差は加齢とともに広がる
シニアヨガをお伝えするにあたり最も難しいと感じることは、健康状態の個人差が加齢とともにどんどん広がるということです。
70代でも60代と変わらない見た目や動きができる方がいる一方で、少しずつ足腰が衰えてきたり、耳が聞こえづらい・視力が低下している、といった方も増えてきます。
基本的に定年とされる65歳〜がシニアと考えて良いと思いますが、60代の方はほとんどが若くまだまだ動ける年齢です。
従って、60代の方にチェアヨガを強く推奨したり、あまりにポーズを軽減すると生徒さん側が不満を抱くケースがあります。
しかし、70代からはほとんどの方に「年齢」による「異変」が生じ、その差が大きくなる一方です。
70代になると「年齢」を自覚し、無理に抗わなくなってくるので、安全性を最重要視し、チェアヨガやいわゆる「シニアヨガ」をお伝えする方向に舵を切って良いと思います。
オープンクラスでさまざまな年齢の生徒さんがいる場合、例えば20代の方と70代の方がクラスにいる場合も、個人的にはシニアの方に合わせた方が良いでしょう。
なぜならヨガクラスとは安全性が何よりも重要視されるべきで、レッスン中に一人でも怪我人を出すべきではないからです。
若い方、動けるシニアの方に「物足りない」と思われることがあっても、優しい動きや呼吸法を洗練させ極めていくことの重要性をお伝えすれば、それなりに満足していただけるはず。
せっかく参加してくれたシニアの方に「ヨガは難しい」「辛い」「あんな動きできない」「どうせ歳だから」と思わせないことが何より大切ではないでしょうか。
さらに、60代くらいまでは痛くても・つらくてもチャレンジできるポーズなのに、70代を超えると急速に難しくなるポーズがあると感じます。
そこで5つの「要注意ポーズ」と「代替ポーズ」についてご紹介します。
シニアヨガで要注意な5つのポーズと代替案
あんなに好きだったダウンドックが出来なくなる?
10年、20年とヨガをされてきた方でも70代になるとダウンドックが難しくなってくるようです。
ダウンドックそのものは出来てもダウンドックからタダアーサナ(立位の立つポーズ)に戻るのが大変になります。
その理由は高齢になると血圧に問題を抱える人が増えてくるから。
ダウンドックから上がってくる時に「クラッ」とする、「めまい」を感じる、「心臓がドキドキする」といった高齢者は少なくありません。
でもダウンドックそのものは気持ちよく、しかも出来ないわけではないので、どうしてもチャレンジしたくなるのです。
高齢の方がいる場合、そして血圧に問題を抱えている場合(ほとんどの高齢者は高血圧です!)、ダウンドックを行った後に、足を手の間に入れて上がるのではなく、必ずチャイルドポーズに戻し、血圧を安定させてから正座になって起こす方が安全です。
さらに正座から片膝を立ててローランジかハイランジのポーズに移動させて、安全に立たせるようにすると良いでしょう。
また、60代でもいわゆる「四十肩・五十肩」状態で肩の可動域が急激に小さくなっている人、痛みを抱えている人は少なくありません。
ダウンドック時には手足のスタンスを短くするのも一つですが、肩を痛めている人がいたら、潔くダウンドックはやめて猫のポーズにする、なども効果的です。
開脚で内腿を痛める!股関節を痛める!脇腹を痛める!
開脚も高齢になるにつれ難しくなります。
腰で座れなくなり、猫背になった状態で開脚するシニアが圧倒的に多くなります。
まずは片足だけ横に広げお尻の下には必ずブランケットやクッションで高さをつけ、腰を立てる練習、膝裏や腿の内側、股関節を優しく伸ばす程度にする方が安全です。
両方の脚を左右に広げられる生徒さんがいたら、その方にだけ誘導し、基本的には片足の開脚でも十分な効果が感じられるように誘導した方が安全です。
両脚を広げて前に前屈するときに、内腿を痛める、股関節をおかしくする、という高齢者さんはとても多いです。
また、腰が立っていない状態で開脚し、上半身を左右のどちらかに倒してストレッチすると、十分に伸びないので脇腹を痛めるケースもあります。
開脚はヨガでは大切なポーズの一つですが、それにこだわりすぎて怪我をさせないように注意が必要です。
コブラのポーズは必要だけれど肩や腕を痛めやすい
猫背になりがちなシニア世代の方に、なんとか後屈の心地よさ・身体的効果を届けたいと思いコブラのポーズもおすすめしたいところですが、手の指が十分に広がらない・肩を下げられない・腰椎が弱くなっている・腹筋も低下している、といったさまざまな理由から、非常に危ないポーズになってしまいます。
ベイビーコブラ・スフィンクスのポーズなどで代用するか、やはり猫のポーズで背骨を前後にストレッチさせ後屈と前屈を繰り返すだけでもシニア世代には十分です。
ヨガの女王様ポーズ「ショルダースタンド」と「ハラアーサナ」は超危険
高齢になると猫背が進み腰が立たず、背骨全体が弱くなっていきます。
そのため、よほどヨガ歴が長い人でない限り、ショルダースタンドとハラアーサナはほぼ出来ないと思って良いでしょう。
むしろ首・肩・腰に大変危険です。
一人でもシニアが参加している、肩や首に違和感を感じている人がいたらこの2つのポーズはレッスンでは入れないようにしましょう。
代用ポーズとしておすすめできるのは「ビバリタカラニ」です。
これなら安全でリラックス効果が高く、満足感も得られるでしょう。
ショルダースタンドやハラアーサナは遅くとも50代の間に習得しておき、その後も続けられたらラッキーというポーズかもしれません。
この2つのポーズは逆転の効果や甲状腺への効果、メンタルへの効果も高いのでぜひ取り組みたいですが、若いうちから練習しておく必要がありそうです。
40代、30代でも出来ない人が案外多いのです。
ヨガをしているなら一度はトライしたい「木のポーズ」は転倒による怪我のリスクが!
木のポーズそのものはシニアでも取り組めますし、これで怪我をすることはありませんが、怖いのが転倒です。
木のポーズをして転倒すると怪我のリスクが高まります。
とはいえ、シニアにこそ片足立ちや爪先立ちになって欲しいので、必ず壁の近くで行う、椅子などを掴んでもらうなど、配慮をしながら行います。
また、片足になる時間を5秒程度にする、膝を開いている側の足の指も床に置いておく、なども転倒予防になります。
木のポーズは上級向けとシニア向けの誘導を同時に行なっても大丈夫なポーズの一つです。
このポーズの時は、みなさん自分に集中していて、鏡でもない限り周りのことは見ていませんので、シニアの方には安心して自分のできる範囲で取り組んでいただき、チャレンジしたい人にはチャレンジしてもらいましょう。
まとめ
私自身は20代からヨガをしていて、現在40代中盤です。
「加齢によってできなくなったな」と感じるポーズは今のところありませんが、練習を怠れば出来なくなりそうだな、と感じるポーズはあります。
また、20代の頃に体が求めていた「息切れするほどハードなヨガ」や「汗がしたたるハードなヨガ」をしたいと思うこともあまりなくなってきました。
ヨガを長く続けている私自身にもこのような変化が起こっているので、生徒さんにも当然変化はあるはずです。
ヨガを長く続けてほしいからこそ、安全なポーズだけでシークエンスを考案し、その上で「できた!」「気持ちいい!」「続けられる!」と生徒さんを元気付けられるシニアヨガクラスを提供していきましょう。