そこで今回は、トレーニングができる場所を探しているトレーナーと、手間なく貸したいジムオーナーをつなぐプラットフォーム「THE PERSON」の創業者でstadiums株式会社の代表取締役でもある大石裕明さんに、お話を伺いました。「THE PERSON」はすでに3,800人のトレーナーと680店舗のマッチングを実現している、フィットネス業界で最注目のサービスです。
大石裕明 stadiums株式会社 代表取締役
前職では地域活性化のイベント事業を主催する会社を創業し某IT企業へ事業譲渡を経験。その後、自身の部活動時代の悩みの経験から運動や身体づくりに関心を持ち、パーソナルトレーナーの可能性を最大化し、少しでも健康や身体に悩む人を減らすべく、stadiums株式会社を創業。
「THE PERSON」の原点は、無駄なスペースを「誰かのポジティブに変えたい」の想い
まずは「THE PERSON」について、どんなサービスなのか教えていただけますか?
「THE PERSON」は、ジムを使いたいトレーナーと、空き時間を有効活用したいジムオーナーをマッチングするシェアリングプラットフォームです。
サービスが生まれた背景を説明させていただくと、パーソナルトレーナーは「独立開業」がなかなか難しい環境にあるということがありました。パーソナルトレーナーとして独立しようとしたら、自分で初期投資をして場所を確保しなくてはならない。これはかなりリスクがあります。区や市の公共ジムにトレーニング機器はありますが、公共施設ですから営利目的の利用はできない。これではなかなか次のステップに進めないという状況に対して、僕たちがその場所を提供する「レンタル専用のジム」としてスタートしたのが始まりです。
トレーナーさんの悩みからスタートしたのですが、利用者が増えるにつれ「僕たちのジムも貸し出ししてもらえないですか」というお話があって。この領域では「自分でジムをつくったものの困っている人」もいれば「なかなか作ることもできない人」もいて、場所に関する困りごとが多いということを認知しました。そこでWEBの開発を経て、プラットフォームとしてサービスを発展させました。
>> レンタルジム・シェアリングジムなら【 THE PERSON 】
シェアリングサービスの着想には、どのような背景があったのですか?
もともと、無駄なスペースを活用して誰かのポジティブに変えたい、ということにすごい興味があって。
この事業を始める前は、営業の会社とイベント会社を経験しました。イベントの会社では「街コン」というイベントを企画運営する会社で働いていました。「街ぐるみの合コン」と思われがちですが、もともとは地域活性化のイベントなんです。飲食店の空き時間を利用して人を集客しようというモデル。
「人の出会いって大事だな」って思っていた部分もありますが、飲食店の「無駄にしている昼間の時間や場所」を「ポジティブに変える」っていうところもすごくいいなと思いました。誰かの「無駄」をみんなで活用して、みんなが楽しめる、誰かのアップデートになる、街全体がポジティブに変えられる「win-win-win」が成り立つことにすごく興味がありました。なので、何かないかなと思っていたところ、色々ご縁があり出会ったという背景です。
これまたいいご縁があって。営業時代に知り合った不動産会社が千駄ヶ谷エリアをどうにか「スポーツの街」として盛り上げたいみたいな話があって。それとは別にアイスホッケーの代表のトレーナーやサッカーの代表のトレーナーの方から「トレーナーはなかなか独立できない」というお話をお聞きして、それなら不動産会社と連携して「場所」を有効活用したらいいんじゃないか、というのでスタートしたという経緯ですね。
「THE PERSON」を利用するトレーナーは3,800人、ジムに特化したシェアリングサービス
「スペース」のマッチングサービスなら他にもあると思いますが、「THE PERSON」ならではの特徴とは何でしょうか?
スペースのシェアリングサービスは他にもありますが、「ジム」に特化してるものは弊社だけです。今時点でトレーナーの利用者が3,800人ぐらいいて、登録ジムさんも今680店舗ぐらい。全国で利用できるところまで広げられたのは、当社の強みだと思います。
また、弊社ではジムとトレーナーだけでなく、利用者とトレーナーのマッチングも行っています。利用者さんにとって「いいトレーナーさんとは?」って結構難しいんですよね。私たちは登録トレーナーの特徴をある程度理解しているので、ご相談いただければお客さんの悩みからこういう人がいいんじゃないですか、と提案させていただいています。
「THE PERSON」を利用される方は、どんな方が多いですか?
パーソナルトレーニングでの利用はもちろん、今はバレエスタジオ、ヨガスタジオ、ダンススタジのシェアリングもさせていただいておりますので、トレーナーにとどまらずヨガやダンサーの方々にも少しずつ広まっています。
最近は小さなお子さんのいるママさんを対象に、パーソナルトレーニングを提供するケースも増えています。ママさんにとってはジムに来て1時間のセッションを行うことが、心と体のリフレッシュになってるみたいです。お子さんを見守りながら本格的にプロのトレーナーから指導を受けて、体を動かすことができるというのが、「すごくリフレッシュになった」、「継続するきっかけになった」というお声をいただいています。小さなお子さまがいると家でやった方がいいのかなと思われますが、ママさんにとっては社会と繋がれる機会として「外出」というリフレッシュが重要なのかもしれません。
また、このコロナ禍においては「お一人様貸し」という形で、一人で集中してトレーニングをしたい人の利用もとても増えています。緊急事態宣言の際には大手のフィットネスジムだと閉まっていたり、オープンしていたとしても不特定多数の人が利用するでちょっと心配、という人たちが「個室のジム」を求めて連絡をいただくケースが多いです。
コロナ前後で「個室利用」のニーズが増えているのですか?
かなり増えています。緊急事態宣言時はコロナ前と比べて4倍のご予約をいただいる状況で、それ以降もずっと伸びています。世の中では暗いニュースばかりですけど、フィットネス領域では順調に伸ている状況です。緊急事態宣言以降は、本当に個人利用が増えだしたという実感があります。
コロナ以降は「オンラインレッスン」の分野が伸びている印象がありますが、対面での良さって何でしょうか?
パーソナルトレーニングにおいては微妙な器具の持ち方だったりとか、足の伸ばし方・背中の曲げ方など、細かな違いで使う筋肉がまったく違うので、オンラインだけだと解決しにくい問題があります。
それから、お家でできるトレーニングの範囲は限られてしまっており、なかなか継続に繋がらない。やっぱり「外に出て、人と会ってやる」みたいなところが自分のスイッチを入れるポイントになったりすると思います。自分だけだとなかなか続かないけど、人に会わなきゃいけないという強制力を自分に持たせることで、継続しているということもあると思います。
「THE PERSON」の利用方法を教えてください。
前提としては、どなたでもご利用いただけます。トレーニングのレベルとして「〇〇レベル以上じゃないと使っちゃだめですよ」ってことはないです。誰でも使ってチャレンジしてください。
お支払いについてはデポジット制になっていて、suicaみたいにポイントチャージして利用していただく形です。利用する施設によって金額は異なりますが、恵比寿だったら3,000ポイント、渋谷なら4,000ポイントなど、利用したいジムのポイントを消費して予約してもらうシステムです。
デポジットはライトに1万円から始められるので、練習がてら身内の人を対象にレッスンするだけに借りるということも可能です。
都内の高いところでも4,500ポイント、安いところだと1,500ポイントから使え、ライトに始められるかなと思います。ポイントの有効期限も6か月なので、無理に頑張らないといけないということではなく、期間中に3~4回程度の利用をイメージして設計しています。
「THE PERSON」を通じて、かかりつけのトレーナーを提供したい
「THE PERSON」の今後の展望についてお聞かせください。
短期的には利用者とトレーナーのマッチングにおいて、もう少し仕組み化を進めていきたいと思っています。お声をいただきつつもなかなかアナログで対応しきれてない部分があるので、利用者がどうやってトレーナーやエリアを選んでいったらいいのか、が分かりやすく予約しやすい状況にしていければと思っています。
長期的にはちゃんとデータが集まるようなことができれば、もう少し大きなことを動かせると思っていて。
例えばトレーナーがもっと使いやすいシステムにして、顧客管理までできるようにしたいと思っています。今だとトレーナーさん1人が10~40人ぐらいの顧客を管理していますが、手書きで管理されています。この情報をデータ化してあげて、グラフとか可視化できるようなものを作ってあげたいですね。情報をデータ化して集めることができれば、どんな年代のどんな人が、どんな悩みを持っていて、どんな風にすれば…という履歴を溜めることができれば、弊社は圧倒的な母数でデータを集めることができると思っています。
そこまでいくと、「このぐらいになるとモチベーションが下がって来て続かなくなってくるから、こんなアクションをしよう」とトレーナーに向けて働きかけができたり、利用者が来た時に「統計的にこれぐらいだったら、こんなんしたらいいですよ」って、簡単にカウンセリングできて、継続するモチベーションになるかなと思っています。そこまでは行きたいなと思っています。
日本では運動が習慣化しずらいと言われています。それに対して「THE PERSON」ではどんなことができそうですか?
日本のフィットネス参加率が3.3%、アメリカが18%。この差がすごく大きいと思っています。日本の参加率が低いのは医療保険の仕組みとかがあるためだとは思いますが、個人の運動に対するモチベーションが低いのが原因だと思います。ジムにいっても60%以上が半年以内に退会している現状。トレーナーという監視してくれる人いれば、利用者は継続する理由になると思います。運動を習慣化していくというのが、僕たちのテーマですね。
かかりつけのお医者さんがいるようにかかりつけのトレーナーがいてもいい時代だと思っています。トレーナーやインストラクターも働き方が多様化しています。どこかに所属しないといけないという時代じゃなくなったからこそ、かかりつけのトレーナーという世界が描けるのではと思っています。
そういった意味では、全国で3,800名のインストラクターの協力を得ることで、それができる規模になってきているかなと思っています。ちょうど私たちだけでは届けられなかった方々にも「健康」を届けることができるのではないかなと社内でも話していました。
最近、「Be THE PERSON」というメディアを立ち上げられたそうですね。
「健康」って一言ですごく便利な言葉ではあるけれど、人それぞれ定義は違います。それぞれの考える健康って何か、人生の豊かさとは何か、をもっといろんな形で発信していいのでは、というところから立ち上がったメディアになります。
【Be the person】は「私らしさの一歩め」ということを定義しているのですが、自分が、自分自身で、自分の豊かさとは何か、というのを改めて言語化していただいて、その自分の豊かさを叶えるために「健康」「運動」をどう活かしているのか、どういう取り組みをしているのかをメディアを通して伝えることで、「こういう豊かさとかあるんだ」とか、「こういう運動の取り入れ方をすることによって、自分なりの健康っていうのが叶えられていくんだな」っていうのが届けられるようなメディアになっている。そういった形でこれからも健康でつながった方々をご紹介していくようなメディアにしたいというのが、立ち上げた経緯です。
PV数が伸びる媒体ではないかもしれないけど、ひとりの人が深く自分のことを語っていて、それが響く人に当たるようなメディアにしたいと思っています。発信を効率よくというよりは、芯を持った内容にしていきたいですね。
>> 「私らしさの一歩め」を届けるマガジン【 Be THE PERSON 】
「グループパーソナル」で、身体的だけではなく精神的にも「健康」を
「健康」という言葉を、とても大事にしていらっしゃいますね。
弊社では「グループパーソナル」という取り組みも行っていて。仕組みとしては、パーソナルトレーニングはマンツーマンですが、「グループパーソナル」はトレーナーひとりの時間を4人でシェアするということをしています。
「健康」の定義をWHOで調べると「身体的だけではなく、精神的にも社会的にも整っていること」なんですね。そう思った時に、アプローチとして僕らは今、運動から入っているけど、運動は一つの側面でしかなくて、精神的、社会的な面がすごく重要になってくる。むしろそこに何かしらのアプローチをしていかないといけないし、本当の健康を語れないだろうなと思っています。
そう考えたとき、「グループパーソナル」が社会的な健康に繋がっているなと思っていて。トレーニングって、一人で集中して追い込むのももちろんいいと思うのですが、つらいことになってしまいがちで精神衛生上よくありません。
3~4人のグループにして「社会」にしてしまうことで、友達同士で話したり、励ましあったりするというのが大事で。目に見える数値結果は出ていなくても、レッスンとしては2年半くらい続いているといったケースがゴロゴロああります。それだけで、いいものを提供できているな、という自負があります。
他の研究で、ランニングでゴリゴリ走るよりも、3人ぐらいのおばちゃんがぺちゃくちゃ喋りながらちょっと歩く方が、健康が続いたみたいな研究結果もあって。
コミットしたい方はこちらからのアプローチできるし、希望を叶えてあげることはできるが、20代後半から40代前後くらいまでだと目的意識はないけどなんとなく運動した方がいいよね、というテンションの人が多い。なにかきっかけがあってジムに行こうとするけど、一時的なもので続かない。パーソナルは体を作るにはいいが、健康を継続させるっていう目的とは全く別なものになる。その両軸が落とし込まれたものが「グループでわいわい」というところを推してやっていけたらなと思います。
トレーニングでも、ヨガでも、ランニングでも、「集まってやる」という場所の提供をしていきたいですね。